
沖縄県在住
アロマ・温活セラピスト
沖縄県在住 金城さちよさん
アロマと養子縁組に導かれた、さちよさんの“私アップデート”
「変化することって、怖いですよね。でも、その変化こそが“生きている証”なんだと思うんです」。そう語るのは、沖縄県を拠点に活動するアロマ・温活セラピストのさちよさん(50歳)です。
現在は、鍼灸師の妹さんとともに、琉球ハーブやアロマを取り入れたセッションを通じて、心と身体のバランスを整えるサロンを営んでいます。さちよさんは、かつて建築業界で20年以上働いていました。現場管理や設計、営業職として、奮闘する毎日。仕事に情熱を注ぐ一方で、長年にわたり不妊治療にも取り組んでいたといいます。
「以前の仕事にも達成感がありました。でも、ふとした瞬間に“このままで本当にいいのかな”という思いが頭をよぎるようになりました。」
そんなある日、過労が重なり、突然倒れて入院することに。医師からは「1ヶ月の絶対安静」と告げられ、これまでの人生に初めて強制的なブレーキがかかりました。
「心も体も限界だったと思います。でも、その時間がなかったら、私は立ち止まることも、自分と向き合うこともできなかったと思います」
「女性として子どもは産みたい。だけど・・・やっぱり“私はお母さんになりたい”」

入院中、家族との時間が日常になり、さちよさんの心にも静かな変化が訪れます。いつもなら忙しくて会えなかった両親が、毎日病室に来てくれるようになりました。普段は妊活のことに口を出していた母が、何も言わず、ただコーヒーを飲みながらたわいもない話をしてくれたのだそうです。
「すごく不思議でした。“今の私でいいよ”って言ってくれているような、そんな気がして、涙が出そうになりました」
夫も毎日、そっと病室を訪れてくれました。
その姿を見ながら、ふと思ったことがあるそうです。
「もし彼がいなくなったら、私はひとりになるんだな…って。逆に、このまま私がいなくなったら、彼もひとりになるんだなって。そう思ったとき、“もうひとり、家族がいてくれたらどんな人生になるのだろう?”と、初めて心から思えたんです」
それは、“もう子どもはあきらめようかな”と思っていた自分の奥にあった、本当の想いでした。
「私、子どもは授からないかもしれない。だけど、やっぱり“お母さんになりたい”なって気づいたんです。」
出会いは偶然のようで、必然だった──「養子縁組」との静かで大きな出会い

「ちょうど退院したころ、夫が“あるご家族に会ってみない?”と誘ってくれたんです」
そのご家族は、熊本の「赤ちゃんポスト」をきっかけにお子さんを迎えた方でした。
さちよさんはそこで初めて、“特別養子縁組”という制度で、実際に子どもを迎えた家族から直接、話を聞くことになります。
「その日から不思議なくらい、タイミングが重なっていきました」
以前の仕事を通じて知り合った方から、「養子縁組支援団体の代表が沖縄に来ているけど、会ってみない?」と声がかかったのです。
「そのとき、“これは流れに乗っているのかも”って思いました」
すぐに研修に申し込み、面接や家庭訪問など約1年の準備期間を経て、さちよさんは赤ちゃんを迎えることになります。0歳の男の子でした。

「“生まれました”という連絡をもらったとき、私たちはすぐに迎えに行く準備を始めました。名前を決めて欲しいと言われていたのでいくつか候補を考えていたのですが、実母さんがこの子のために考えた名前があると聞きました。
その響きを“実母さんからの贈りもの”として大切にいただき、漢字だけ私たちがつけさせてもらいました」
さちよさんは、息子さんにこう伝えているそうです。
「“あなたの名前は二人のお母さんからのプレゼントだよ“って。本人も“ママがふたりもいてラッキーだね”って笑ってくれます」
その後、さちよさんはもうひとりの命を迎えます。現在1歳になるその子は、家庭の事情で実親のもとを離れて生活しなければならず、さちよさんご夫婦は「里親」として日々を共にしています。
「私たちの役目は、“元の家庭に戻るまでの時間を、家族として一緒に過ごし、成長を見守ること”。それが、この子にとって一番良い形だと思っています」
実親との面会も定期的に続けながら、子どもの心に寄り添う日々。その姿勢からは、あくまでも子どもの最善を大切にする、さちよさんの揺るがない信念がにじんでいます。
「育児は、自分自身と向き合うことでもあります」
子どもとの日常は、喜びもあれば葛藤もある。思い通りにならない瞬間に、自分の中の“見たくない一面”と向き合うこともある。
「でも、それも含めて“自分だな”って認めることが、成長だと思えるようになりました」
かつては3日間徹夜で働くこともあったさちよさん。年を重ねた今は、夜中の授乳で起きることにも一苦労。でも、その変化すら、愛おしいと笑います。
「“できなくなったこと”が増えても、私は今の自分が一番好きです」
45歳で会社を辞める決断をしたときも、「やりきった」という感覚が背中を押してくれたといいます。
「“お母さんになりたい”という夢を叶えたからこそ、今度は“お母さんとしての時間”を大切にしたいです」
妹とふたりで紡ぐ、癒しの場づくり

「もともとは“自宅の一角で何かできたらいいね”という話からスタートしました」
そう笑うさちよさん。今では、妹さんと二人三脚で運営するサロンに、県内外からお客様が訪れるようになりました。
ほぐし、ルート治療の施術メニューをはじめ、琉球ハーブ蒸しやアロマリーディングを中心に、心と身体の両面から整えるセッションを提供しています。中でも、体調に合わせてブレンドするオリジナルのハーブ蒸しは、女性特有の不調や冷えの改善に好評です。
「ハーブを蒸して香りに包まれるだけで、呼吸が深くなる。涙を流して帰られる方もいらっしゃいます」
サロンでは、話すこと・聴くことを大切にしているのも特徴です。
「最初から“癒します”というよりも、“一緒にほどいていきましょう”というスタンスでいます」
香りと対話を通して、ふだん口にできない想いや疲れをそっと開放していくような、そんな空間です。
「最近は、お母さまと娘さんなど親子で施術に来られる方も増えてきました。世代を超えて自分と向き合う時間が持てるのは、本当に素敵なことだなと思います」
香りは、記憶や感情とつながっている

セッションの中で使う精油やハーブは、そのときの体調や心の状態を見ながら選ばれるもの。
「“この香り、なぜか涙が出ます”っておっしゃる方もいます。香りって、記憶や感情と深く結びついているんですよね」
だからこそ、毎回“決まった正解”はないといいます。
「一人ひとり、その日その瞬間に必要なものが違う。だからこそ面白いです」
さちよさんは“整えること”を押しつけず、今の状態を優しく映し出すように、香りを届けています。
「答えは、その人の中にある。それを思い出すお手伝いができたら嬉しいですね」
地域とのつながり、母としての視点から

最近では、地元のイベントや学校行事などに参加する機会も増えてきたそうです。
「今後は“地域のお母さん”みたいな立場でも関わっていけたらと思っています」
社会的養護が必要な子どもたちと一緒にワークショップを開催したり、親子向けのお話会を開いたり。そんな活動も今後は少しずつ広げていきたいと考えているとのこと。
「“育てる”って、家庭のなかだけじゃないと思うんです。見守ってくれる人が地域にたくさんいるって、すごく心強いですよね。」
「生きているだけで、えらい」そんな言葉を届けたい

取材の終盤、ふとこんな言葉がこぼれました。
「“生きているだけで、えらいよ”って言葉、よく子どもにかけるんです。自分自身にも、もっと言ってあげたいなと思っていて」
完璧である必要なんてない。
うまくできない日も、感情が揺れる日も、ひとつの“生きる力”として尊いもの。
「“ちゃんとできているか”より、“ちゃんと感じているか”。そういうふうに生きていきたいですね」
年齢を重ねること、変化すること、自分を受け入れること。
どれも簡単ではないけれど、そこにこそ“しなやかで美しい強さ”がある。
だから、私たちは何歳からでもアップデートできる──
そんな希望を、さちよさんの言葉と生き方から確かに受け取ったインタビューとなりました。
取材 きたじまあいこ