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「いつかなりたい」ではなく、「なるのは当然」という意識で

スクールに入ったその日から、着付け師

着付け師 あゆみさん

神奈川県にお住まいの着付け師、あゆみさん(47歳)

25歳のときからホテルのウエディング、銀座のホステスさん、CMなどでタレントの方々への着物の着付けを手がけ、約20年間、着物とともに歩んでこられました。

その間、妊娠をきっかけに一時活動を休止されましたが、出産後に個人事業として再開し、2024年には法人化されました。

着付け師としてのご活動にとどまらず、7~8年前からはプロの着付け師を育成するスクールにも力を入れていらっしゃいます。

凛とした口調からは、強くしなやかでありながらも、透明感のある優しさが感じられました。

あゆみさんが主宰されている着付け師育成スクールでは、本気でプロを目指す方のみを受け入れ、実践重視のカリキュラムを展開されています。

一般的な着付け教室のプロコースを修了しても、実際に着付け師として活躍できる方は少ないのが現実です。中には、教える立場の先生自身が現場経験に乏しいこともあるのだそうです。

ご自身もかつて、着付け教室を卒業したものの、プロになるための道筋が見えずに悩んだ経験をお持ちのあゆみさん。だからこそ、生徒には「スクールに入ったその日から、着付け師としての意識を持つ」ことを大切に伝え、数多くの実践の機会を用意されています。

実際、卒業生の多くが着付け師として活躍されており、未経験からでも仕事を得られるようになるまでの成長を見届けられることは、大きな喜びだと話されます。

「仲間として一緒に活動できるようになることが、何よりもうれしいんです」と微笑まれる姿が印象的でした。

~お互いの価値を提供することから生まれた着付けボランティア~

「マネキンと人とは、まったく違います」

人にひもを締めるとき、多くの方が最初は怖がってしまい、ゆるく締めてしまうと歩さんは言います。すると着崩れの原因になり、裾を踏んで転んでしまう危険性も出てきます。

逆に、きつく締めすぎてしまうと、今度はお客様が苦しくなってしまいます。こうした“ひもの加減”一つ取っても、実際に人に着付けをしてみないと感覚がつかめないのです。

だからこそ、経験が大切。あゆみさんのスクールでは、実践の機会として、2~3年前から着付けボランティアを始められました。

きっかけは、コロナ禍の頃に「七五三で着物が着られなかった」という投稿を見たことでした。

「私たちは人に着付けをして経験を積みたい。一方で、七五三や記念日などで着物を着たい方もいらっしゃる。そこでマッチングできたら、お互いに価値を得られて素晴らしいことになると思ったんです」

現在では月に一度、着付けボランティアを継続されています。特にお子さんのモデルに出会える機会は貴重で、七五三体験では親子ともに喜ばれ、スクール生にとっても貴重な経験になっているそうです。

「自分たちも学びになっていて、相手にも喜んでいただける。お互いの相乗効果があって、価値のある活動になっているんです」

40代からの女性にこそ、着物という選択肢を

「年齢を重ねると、自分に似合うものがわからなくなってくると感じる方が多いように思います。そんなとき、着物はとてもおすすめです」

あゆみさんはそう語ります。

リサイクル着物でも、十分にきれいなものが揃いますし、手ごろな価格で始められるのも魅力のひとつです。

「着物は洋服に比べて流行に左右されにくいですし、着方を覚えれば長く活用できる技術になります」

また、着物を着てレストランに行ったとき、窓際の席を案内してもらったり、服が汚れないように気を配ってもらえたりするなど、丁寧なサービスを受けた経験がある方も多いのではないでしょうか。

「着物を着ていると、自然と所作も整ってきて、気分も上がるんです。まだ知らなかった自分に出会えるような、そんな体験ができるのも着物の魅力だと思います」

~インタビューを終えて~

あゆみさんの豊富な経験と真摯な姿勢が、スクールの活動へと反映されていることがよく伝わってきました。

着る側だけでなく、着せる側にとっても価値を感じられる「着付け」という仕事。その想いが、タフでありながらもしなやかに、そして誠実に活動を続ける歩さんの原動力になっているのだと感じました。

取材・文:なかはら ひろえ